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ニッセイ緑のオンライン環境講座⑩~クスノキ~(講師:林 将之氏/樹木図鑑作家)
《テーマ》学校の樹木トップ20紹介⑩『クスノキ』
私が最初に覚えた木は、小学校の校庭にあったクスノキ(樟、楠)でした。テカテカの葉、縦に裂けた樹皮、子どもが入れそうなウロ(穴)があいた太い幹。掃除当番になった日には、たくさんの落ち葉を竹ぼうきで掃いたものです。校歌にもこのクスノキが登場したので、植物にあまり興味のなかった当時の私でも、強く心に残っています。
卒業して10年前後経ったころ、台風で校庭のクスノキが倒れたと聞き、私は久しぶりに母校を訪ねてみました。校庭のまん中には、無残に折れたクスノキの太い幹があり、あのウロも残っていました。そして、株元から新たな芽が生え、既に数mの高さに成長していました。第二世のクスノキが育ち始めていたのです。
それから15年以上が経った現在、二世のクスノキは2階建ての校舎を超える高さにまで成長しました。私が覚えている一世のクスノキも、確か同じぐらいの高さに枝を広げていました。「大きな木」として記憶していたあの木は、こんなに小さかったのか、と今になって思います。私の体が小さかったからでしょう。
それだけ、小さな子どもたちにとって、校庭の樹木は大きな印象を与えてくれます。当時、全校児童100人を切っていたこの山口県の小学校は、児童減少と耐震性の問題から5年前に廃校になり、校庭の木々だけが、今も変わらず葉を茂らせています。
そんな思い入れのあるクスノキが、ニッセイ緑の財団による学校の樹木名プレート設置数ランキングで、第15位に入りました。
常緑樹でありながら、春先にほとんどの葉をつけかえることが特徴で、明るい緑色の葉をモコモコとつけて見栄えがよく、街路樹にも人気があります。寒さに弱いので、北日本では見られませんが、西日本の学校に限定すれば間違いなくトップ10に入る木です。
クスノキは九州原産といわれ、西日本の神社やお寺、お城などに立派な大木が多く見られます。中でも、鹿児島県の蒲生八幡神社にある「蒲生(かもう)の大クス」は、幹回りが24mもあり、日本一太い木として知られています。
なお、ランキングで20位に入ったシュロ類も、クスノキ同様に暖地に多い木です。九州南部や中国が原産とされるヤシの仲間で、東京近郊でも鳥がタネを運んで野生化し、あちこちの森で見られるようになりました。クスノキも近年は東京近辺でもよく育つようになったので、温暖化の影響で日本が亜熱帯化しつつあるともいわれます。
クスノキの葉や木材を傷つけると、さわやかな香りがします。これは、樟脳(しょうのう:カンフル)と呼ばれる成分を含むためです。クスノキから抽出された樟脳は、昔から衣類の防虫剤、強心剤(カンフル剤)などの医薬品、元祖プラスチックであるセルロイドの原料などに使われたため、西日本を中心にクスノキが植林され、輸出も盛んに行われていました。
クスノキは人々の生活を支える重要な資源だったのです。
現在では、防虫剤も強心剤もセルロイドも、大半が化学合成物質や石油製品に置き換わり、天然樟脳の生産量はごくわずかになりました。一方で、私たちの生活に化学物質が増えたことで、化学物質過敏症やシックハウス症候群などの健康被害も増えており、天然の樟脳が再び見直されつつもあります。
薬、紙、木材、食料、燃料、肥料・・・
私たちは多くの資源を植物から得てきました。しかし、科学技術が急速に進歩した今、人々は植物の名前を忘れ、恩恵を忘れ、代わりに様々な人工合成物質を作り出し、解明できない現代病や環境問題と向き合う世の中になりました。
もっと多くの子どもたちが、植物の名を知り、自然と関わる経験をもつことができれば、この地球を健全な方向に変えていくことができると、私は信じています。
(連載終わり)
★当シリーズのこれまでの講座について
《前回(第9回)講座》https://www.facebook.com/nissaymidori/posts/3417055858327426
※前々回以前の講座は上記URLよりご確認いただけます。
★講師について
当講座の講師の林将之氏は、当財団が2019年度より全国の小・中学校等に提供している「学校の木のしおり」の作成に携わっていただいております。
★「学校の木のしおり」の提供について
ニッセイ緑の財団では、現在学校の木のしおりの活動実施校を募集中です!
ご興味のある方は以下URLより募集ビラ・募集要項をご確認の上当財団宛にお申込みください(お申込みはメール・FAXどちらでも可能です)。
(HP記事)
https://www.nissay-midori.jp/topics/details/810
(FB記事)
https://www.facebook.com/nissaymidori/posts/3263263873706626
※当講座については『毎週木曜日』に登載予定です!
1:鹿児島県姶良市蒲生町にある「蒲生の大楠」。幹囲24.2m、樹齢約1500年といわれ、環境省の調査で日本一太い木に認定されている。
2:筆者の母校、山口県田布施町の旧・麻里府小学校にある二世のクスノキ。
3:クスノキはクスノキ科の常緑高木。樹皮は明るい茶色で、縦に短冊状に細かく裂ける。
4:4〜5月ごろ、若葉が出るのと同時に、古い葉が紅葉して落ちる。落ち葉が多いので管理の手間はかかる。
5:クスノキの花はクリーム色で小さく、4〜5月に咲く。
6:クスノキの果実は秋〜冬に黒く熟し、鳥がよく食べに来る。
7:クスノキの街路樹(広島県)。新緑の季節は特に美しい。
8:クスノキの葉は3本に分かれる脈が目立ち、その分岐点にダニがすむ1mmほどのふくらみ(ダニ部屋)がある。
9:クスノキの植林地(兵庫県)。現在は放置されて自然林のようになっている。
10:シュロやトウジュロは、クスノキ同様に暖かい地域でよく見られるヤシの仲間。